学会報第37号

(2018年5月31日発行)

日本法哲学会理事長就任にあたって

日本法哲学会理事長 森村 進(一橋大学)

 昨年11月の日本法哲学会総会で理事長に選出されました。
 歴代の錚々たる理事長に比べてその器ではないと思いますが、法哲学会の繁栄のために尽力するつもりです。どうか会員の皆さんのご鞭撻とご協力をお願いします。
 さて学術出版が困難になっているとか研究教育ポストが増えないといった日本の現状は法哲学研究にとっても厳しいもので、日本法哲学会がその現状を変えることは困難ですが、会員の皆さんの努力によって日本の法哲学界を活気づけるためにできることは存在すると思います。
 私がここで注意を促したいのは、学会員がもっと日本国内の文献・業績に明示的に言及してよいということです。論文や著書を書く際に外国語の文献しか取り上げず、当然取り上げてしかるべき日本語文献を軽視する研究者は少なくありません。また外国語文献の邦訳が出版されているにもかかわらずそれが存在しないかのように無視するという悪習もしばしば見受けられます。このような態度は研究の進歩と普及を妨げます。おそらく邦訳の存在を無視することについては、筆者はもともと原書を参考にしているのであえて邦訳に触れなかったという言い訳がなされるかもしれませんが、そのような場合でも、日本語で書いている以上は日本の読者を想定しているはずですから、邦訳をあげないことは読者にとって大変不親切です。また筆者が既存の翻訳に不満があるならば、その点をはっきり指摘すべきでしょう。
 肯定的と否定的のいずれにせよ、日本語文献への率直な評価を行うことは日本の法哲学の健全な発展にいくらかでも資すると考え、最初のあいさつで書かせてもらいました。