学会報第20号

(2009年9月2日発行)

2005-2009年、そして以後へ

日本法哲学会理事長 嶋津格 (千葉大学)

 2005年11月から4年間、法哲学会の理事長を務めさせていただきました。任期を終えるに当たって、思いつくままですがこの間を振り返ってみたいと思います。
 学会を維持し次へと継続してゆく上でもっとも重要なものは、事務局の通常業務です。これは高橋文彦、山田八千子両事務局担当理事の有能さと献身のおかげで、かなり円滑に進んだと思います。それにまつわる私の失敗談を一つ。当初学会のHome Pageは私を含めて3人で管理しようということにしていました。それで私も数度、自分で法哲学会のHome Pageの更新をやってみました。そのときも、誤ってファイルを古い方に更旧してしまうというような失敗があったのですが、ある時もっと劇的なことが起きました。確か山田理事から電話で、法哲学会のHome Pageに接続したら、本人の大きな顔が入った嶋津のHome Pageが出てきて、法哲学会に行けなくなっている、というのです。自分でも確かめて見ましたが、驚いたことに法哲学会のURLを私が乗っ取った状態になっていました(笑)。どうも原因は、自分のPC内のホームページビルダーの送信先に、法哲学会と自分のサーバーがどちらも登録されていて、自分の Home Pageを更新しようとして誤って法哲学の方にそれを送信してしまった、とういうことのようでした。この事件の結果、嶋津がHome Pageに触れるのは禁止、ということになり、3人での管理体制はあえなく終焉となりました(涙)。以後は高橋さんが専門でHome Pageを維持して下さり、それ以後事件が起こることもなく現在に至っています。I-net関連で次の理事長への申し送りとしての教訓は、①まず有能な担当者を選ぶこと、②そして自分はその邪魔をしないこと、です。
 竹下前理事長時代以降、学会の個別報告と年報掲載論文の公募化が進みました。個別報告は現在、8つの内5つが公募になり、理事推薦枠は3つのみになっています。全部を公募にすることも可能ですが、これは応募論文の数や、特に若手の研究者でこちらから報告を依頼したい人のことなどを考慮しながら、将来考えてゆけばよいと思います。年報の掲載論文については、統一テーマ以外は基本的に全部投稿論文になり、研究ノートなどは廃止しました。院生を含む若手は、年齢やキャリアに関係なく遠慮なく論文投稿にチャレンジしていだけるとありがたいと思います。そして若手だけでなく、シニアーの研究者からも積極的な投稿が来るようであれば、年報はもっと盛り上がるかと思います。
 年報では昨年(法哲学年報2007)から、「論争する法哲学」という書評のコーナーも始めました。一般に学会の存在意義の一つは、ピア・レビューとして同じ専門分野の業績の評価を行うことにあります。もちろんその評価は最終的なものではありえませんが、専門分野の中でさえ明示的な評価が行われないようでは、他のところでそれを期待することはできません。評価の対象とならないまま多くの業績がただ並列されているという状況は、外から見てその分野の見通しを悪くし、全体としてその分野が周辺化する原因にもなります。肯定・否定の評価を相互に活発に行いながら、その過程が歴史として蓄積してゆくということが理想です。その蓄積が一定の豊かさをもつようになれば、新たな業績はその背景の下におかれて、特定の場所を占めるものとして理解可能になるはずです。論争は、個々の主張の内在的価値または真理性をめぐるものではありますが、同時にこのような歴史を創る営みであることも意識したいと思います。外国の文献はもちろん重要ですが、それに対するわれわれの評価が当の著者にフィードバックすることが期待できない限り、議論は一方的な受容をめぐるものに限定されてしまいます。われわれはまず、日本語の中で議論を豊かにすることをめざすべきではないか、と私は考えます。
 これに関しては、法哲学年報と法哲学四季報が創刊号から2004(2005年刊)まで、全部がwebで公開されたことも重要です。法哲学会のHome Pageから「法哲学年報」のリンクを辿れば、JST(日本科学技術振興機構)が運営しているJournal@rchive内のページに行けます。戦後初期の頃、憲法・国際法・民法・刑法などの大家たちが法哲学会で基本的な論点について議論している様子などがうかがえて、興味は尽きません。相互引用のためにも大いに活用していただきたいと思います。
 学会では昨年(2008年)から、ワークショップも始めました。かなり活発な議論が行われているかと思います。まだ応募その他についてシステムが確定していない(応募過多の場合の処理など)面がありますが、将来は大いに発展してほしいと思います。また、英語でのセッションも見られるようになりました。 2008年は個別報告が1本あり、今年(2009年)はワークショップで1件予定されています。その影響も含めて、年報でも英文論文の掲載が見られるようになりました。言語は形式的なことに過ぎませんが、それでも国際化は重要です。海外の会員獲得も含めて、次期の執行部に期待したいところです。この意味の国際化が進めば、学会誌の公刊にたいして学振の補助を申請する、という可能性も開けてきます。
 以上、今後の発展への期待も含めて、思いつくままに書かせていただきました。法哲学会での議論の深化と学会の繁栄(特に会員の数と範囲の拡大)を祈る次第です。