学会報第29号

(2014年5月31日発行)

ごあいさつ

日本法哲学会理事長 亀本洋(京都大学)

昨年11月に、井上達夫前理事長のあとを受け、日本法哲学会の理事長をお引き受けいたしました。事務局長の濱真一郎理事(同志社大学)および学会サイト運営等を引き続き担当する大屋雄裕理事(名古屋大学)とともに、日本法哲学会の発展と会員の皆様のご研究の進展にいささかなりとも貢献するため、微力ながら全力を尽くす所存でありますので、会員の皆様におかれましては、ご協力のほど、どうかよろしくお願いいたします。
ここ10年以上、日本法哲学会は、会員の皆様のご協力、理事の献身的な努力もあり、安定的かつ良好に運営されてきたと判断しております。したがって、改善はめざしますが、基本的に、前理事長体制と異なる新機軸を打ち出していくなどということは考えておりません。
ただし、20年以上理事をやってきた者の一人として、気になっていることが一つあります。日本法哲学会特別基金という別枠予算があり、この使いみちを私の任期、この2年間の間になんとか決めておきたい、ということです。それを何に使うかということについては、これから時間をかけて理事会で話し合っていくつもりでありますが、会員の皆様からもご意見をいただければ、大変ありがたいと存じますので、理事にお会いになった折などにお伝えいただければ幸甚です。
田中成明理事長の時代(1993年~1997年)まで、法哲学会の会費は年報代3000円を除くとわずか2000円でして、学会の会計運営は、非常時には(会費支払いの多い11月の前、学会開催準備のためにお金が一番必要な7月から10月にかけて資金が一時的に払拭することがありました)、理事長のポケットマネーから借りるなどして、自転車操業を続けておりました。こうした金欠状態に対処するため、学術大会関連経費に主としてあてる目的で、特別基金を設け、会員から寄付を集めることが決定されました。今はほとんど故人になられましたが、当時の理事、元理事の方々を中心に、広範な会員の皆様から多額の寄付が集まりました。
いつでも使えるよう若干を普通貯金にし、残りを定額貯金にしました。その後、会費1000円の値上げと、理事会出席理事への交通費補助の縮小、その後の事実上の廃止、学術大会開催校への補助金の抑制などの効果もあって、学術大会経費を特別基金から支出しなくても、通常経費だけでどうにかやっていけるようになりました。そのため定額貯金は使われないまま満期を迎え、その間の高利率もあり、現在500万円をこえる金額が残っているのです。
寄付された諸先輩は、法哲学会のために使ってくれという思いで、そうしてくださったわけですから、20年近くも放置したのでは、先輩方に申し訳ない、というのが今の私の率直な気持ちです。それと、碧海純一門下の方が日銀総裁をなさっている今日この頃ではありますが、私は勝手に、インフレになるのを恐れています。早く有意義な目的に使ってしまいたい、ということです。
もうひとつ、最近の学会事情で気になることをのべておきます。学術大会分科会の個別報告の制度は、もともと、永く日本法哲学会会員でありながらも、一度も学会報告をしたことがない方に発表の機会を与えることを主目的にして始まりました。公募制度が始まったのは、笹倉秀夫理事長の時代(1997年~2001年)です。それまでの理事会推薦という方式では、どうしても理事の目の届かない会員がでてくる可能性があるということに対処するため、定員の半数を公募にあてることにしたのです。この方式は、公募審査をする理事および一般会員の査読者には大変な負担をかけましたが、しばらくはうまくいったと思います。
その後、おそらく竹下賢理事長時代(2001年~2005年)だったかと思いますが、ゆくゆくは外部から補助金をとる目的で(まだ実現しておりませんが)、法哲学年報をアブストラクト付き査読誌にする際、分科会報告と年報掲載とを分離し、年報掲載論文のすべてについて査読をすることになりました。分科会報告をしても、その原稿論文が自動的に年報に載るということはなくなったのです。
このことと、おそらく、現在40代前半(ないし後半)くらいの年齢の方々の教育・研究職への就職が非常に厳しい時代が長く続きまして、あきらめて他方面へ転身された方が多かったせいもあるかと思いますが、現在では、分科会公募に応募する会員が非常に少なくなっています。この制度は、もともとは、学会デビューの機能を果たしてきたものですが、現理事会では、一度以上ご報告いただいた会員の方々も遠慮なく応募していただきたいということで意見が一致しています。同一原稿で、分科会報告と年報掲載への査読を同時に受けることができます。ふるってご応募いただけることを希望します。また、制度変更へのご意見がございましたら、遠慮なく理事にお伝えください。
日本法哲学会の歴史と現況の一端をお伝えしただけで、アカデミックな話がなくて恐縮ですが、以上をもちまして、ごあいさつに代えたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。