2018年度 日本法哲学会奨励賞 (2017年期)

 日本法哲学会は、2018年度日本法哲学会奨励賞を以下の通り決定し、2018年11月10日に、学術大会・総会が開催された東京大学において、授賞式を行いました。

著書部門

西村清貴
『近代ドイツの法と国制』
(成文堂、20178月刊行)

学会奨励賞選定委員会の講評

 西村清貴会員の著書『近代ドイツの法と国制』は、わが国における久々の19世紀ドイツ国法学に関する包括的な研究書である。本書は、ゲルバーやラーバントらの学説を「実証主義」国法学とする従来の通説と批判的に対峙し、彼らに対する批判者として知られるギールケも俎上に載せ、各人に共通の土台と独自の法と国制の構想を丁寧に検討し解明している。その際、サヴィニーの歴史法学からの影響を重視しつつ、「法と法律の区別」や「公共体としての国家」という理念を通して法と国制の構想を検討する本書の論旨は明確である。
 本書は、ドイツやわが国における近年の研究動向をふまえ原著や多くの文献を渉猟して、それらを一貫した論旨の中で粘り強く詳細に分析・考察してまとめあげられている。その際、各章・節・款・補論・小括などの配置は適切であり説得的な構成と展開がなされており、学術的に高く評価できる。
 しかし、欲を言えば、本書における鍵概念の一つでもある「公共体としての国家」という理念については、さらに一歩踏み込んだ明確化が望まれるところである。「公共体としての国家」という理念は、「民族によって民族のために存在する」ものとしてまずは提示され、『公権論』期のゲルバーとギールケの国制論に共通するモティーフに関連しても言及されていたが、この二つの論点は、本書の論旨にとって特に重要であり、さらなる掘り下げと明確化が望まれる。「公共体としての国家」という理念の内実を明確化することにより、本書の説が他説よりも内在的理解として適切であることを、より客観的かつ説得的に示すことができるであろう。なお、「実証主義か自然法論か」という二者択一的思考が従来の法哲学・法思想史における研究枠組みであった、とする研究状況の把握には疑問が残る。
とはいえ、本書が豊富な研究資料に裏付けられた労作であることは、間違いない。論旨、構成、展開、文章、いずれも高い水準に達している。以上の理由から、本著書は学会奨励賞に値するものと評価された。

著書部門

福原明雄
『リバタリアニズムを問い直す―右派/左派対立の先へ―』
(ナカニシヤ出版、20174月)

学会奨励賞選定委員会の講評

 本書は、リバタリアニズム=最小国家論という従来の一般的な理解を超え、リバタリアニズムの新たな地平の開拓を目指した意欲作である。
リバタリアニズムの様々な立場を比較検討し、分配原理によるリバタリアニズム分類の再構成、右派・左派・中道への鳥瞰、リバタリアニズムの様々な正当化根拠への批判などが丁寧に展開され、ひとつのリバタリアニズム理論を展開するにあたり従来想定されていたより多くの論点の検討が必要であることが示した点でも意義ある著作である。
 筆者自身の立場は、リバタリアニズムのアイデンティティにつき、基本的にはノージック的な自己所有権論リバタリアニズムであるものの、通説的リバタリアニズムの理解を超え、再分配をある程度認める中道的な見解に見いだす。そして、分配に関する「十分性説」に依拠することを示した上で、自己著述者性(自らの人生における事柄すべてを自らの決定の下に置き、自らに帰属させようとする見方)という立場を提示する。筆者のこれらの主張は明快であって、リバタリアンが最も扱いづらい分配問題につき異論を予期しつつ正面から挑戦しているという点は高く評価できる。
 ただし、既存の理論に対する批判的分析の厚さに比べ、自らの立場の積極的論証は、リバタリアニズムのアイデンティティ問題が何故それほど重要なのかという筆者の問題設定を含めて、必ずしも十分ではない。また、政治哲学的論考の色彩が強く法理論・法制度の部分は薄いと言わざるをえない。加えて、自己所有権論の検討にとって重要なコーエンの理論の検討やリバタリアニズム以外のリベラリズムの検討がよりなされている方が望ましいともいえるなど、幾つかの問題点はある。
 とはいえ、本書がリバタリアニズムの本格的な研究書であることは疑いなく、リバタリアニズムの多くの論点につき自らの思考を自力で展開するという姿勢と共に、十分評価に値すると考えられる。以上の理由から、本著作は学会奨励賞に値するものと評価された。

論文部門

佐藤 遼
「法律関係論の史的展開(一)~(四)完)」
(『法学論叢』1786号、1792号、1795号、1801号・2016年)

学会奨励賞選定委員会の講評

 本書は、法律関係およびその変化のプロセスをいかに記述するか、という法哲学上の重要問題に取り組むものである。19世紀ドイツおよび、19世紀末から20世紀初頭の英語圏における、権能概念を重視した思想の系譜を丹念に辿った上で、これまでの通説的な見解を大きく塗り替えようと試みる長編の労作である。
 法哲学の通説的な理解では、ホーフェルドが法律関係を記述するための諸概念を提示し、それらの相関関係や矛盾関係を提示したとされている。しかし、実は、彼の提示した諸概念は、すでにサーモンドによって提示されていたということが、著者によって示されている。著者によるこの指摘は、従来の法哲学の理解を塗り替えるものであり、学術的に高く評価される。著者の優れた点は、以上に加えて、ホーフェルド以後の議論状況を整理しているところにもある。すなわち、一見すると直観に反するような義務者の権能(とくに反義務権能)について、コクーレクの難解な見解を正確に把握した上で、説得力ある形で提示している点である。
 ただし問題がないわけではない。本論文ではその成果として、法律関係の記述における権能の領域の重要性を示したとされているが、その評価の前提となるべき、権能概念の「重要性」について必ずしも十分な論証がなされていないからである。とはいえ、法律関係の記述において権能概念が果たす役割を明らかにするという論旨と構成は明快である。以上の理由から、本論文は学会奨励賞に値するものと評価された。

日本法哲学会奨励賞への推薦のお願い[2018年期] (2017年10月2018年9月分)

 日本法哲学会では、法哲学研究の発展を期し若手研究者の育成をはかるために学会奨励賞を設けています。

2019年度[2018年期]受賞候補作について、次の通り、日本法哲学会会員による推薦を受け付けますので、ご推薦いただきますようお願いいたします。自薦/他薦を問いません。(詳しくは日本法哲学会奨励賞規程をご参照ください。)

対象作品
2017年10月1日から 2018年9月30日までに公刊された法哲学に関する優れた著書または論文(全体として10万字を超える論文は、著書として扱います。)
刊行時の著者年齢が著書45歳まで、論文35歳までのもの


推薦は、左にありますエントリーシートにより、日本法哲学会事務局の推薦受付用アドレス (prize@houtetsugaku.org) までお寄せください。
自薦の場合には、推薦に際し写しで結構ですから作品一部を添付願います。

上記の写しは、電子データ(ワープロ原稿など)がお手元にある場合には、それを送信いただいても結構です。ただし、公刊されたものと大幅に内容が変わっている場合には、公刊されたもの(著書、論文抜き刷り)またはそのハードコピーを郵送して下さい。
いずれの場合も、2019年度[2018年期]については2019年1月31日が締切となります。同日中に日本法哲学会事務局に到着するよう、お送りください。
選考結果の発表および受賞者の表彰は2019年度学術大会において行われます。

奨励賞選定委員会委員長 亀本 洋 
       同幹事 山田八千子