2017年度 日本法哲学会奨励賞 (2016年期)

 日本法哲学会は、2017年度日本法哲学会奨励賞を以下の通り決定し、2017年11月18日に、学術大会・総会が開催された大阪大学において、授賞式を行いました。

著書部門

横濱竜也
『遵法責務論』
(弘文堂、2016年8月刊行)

学会奨励賞選定委員会の講評

 横濱竜也会員の著書『遵法責務論』は、遵法責務に関する、我が国において初の総括的な研究書である。遵法責務問題とは、法システムの作動において前提となる、「悪法でも法である限りそれに従う義務はあるのか、あるとすればその理由は何か」という法哲学の課題であるが、この最難課題に、本書は真正面から取り組み、粘り強い考察を進めている。本書ではこの課題に取り組むために、法内在的価値と政治道徳的意義という2つの柱を立てたうえで、種々の理論を整理し、その成否を検討するという全体構成が取られている。
 即ち本書では、法実証主義や法内在価値説の批判的検討から、同意理論、連帯責任論、帰結主義的正当化、公平性論、正義の自然的義務論など、関連理論をひとつひとつ丹念に批判しつつ、遵法責務の正当化根拠を探究するという議論が展開されているのであるが、そこには冒頭に示した問題意識が明確に貫かれており、また各章の展開も適切かつ緻密であってきわめて高く評価できる。その上で横濱会員は遵法責務論が統治原理に関わる法の根本問題であることを摘示しており、また関連諸理論についての批判的検討は、法哲学的知見に関する示唆に富んでいる。
 もちろん問題がないわけではない。欲を言うならば、法概念論と政治的責務論との関係、遵法責務の政治的責務への還元、法遵守のための機関分立の意味などについて、さらなる解明が望まれるところではある。しかしこれまで注目されてこなかった重要なテーマに果敢に取り組み、関連文献に丁寧に当たるなど豊富な勉強量に裏付けられた労作であることには間違いはなく、同様の志を抱く後進への励ましになる著作である。論旨、構成、展開、文章、いずれも高い水準に達している。以上の理由から、本著書は学会奨励賞に値するものと評価された。

論文部門

米村 幸太郎
「「功績Desert」概念と応報」
(『法哲学年報 2015』2016年11月刊行、所収)

学会奨励賞選定委員会の講評

 本論文は2015年度学会報告をもとにして、『法哲学年報2015』に掲載されたものである。短いながらも、ロールズの分配的正義における功績否定論と刑罰における功績肯定論との間の非対称性という謎を明確に提示し、この謎に対する論争を概観し、著者なりの見解を示すというきれいな形で展開されている好論文である。
 本論文は、ロールズの功績概念に関する非対称性を難点だと考える通説的な見解と対決し、非対称性を擁護する。とは言え、分配的正義の領域における功績概念の否定は、何らかの仕方で、刑罰の領域における功績肯定論に対して影響を与えざるを得ない。そこで、筆者はロールズの正義論から応報主義を正当化する「刑罰のフェアプレイ論」を導き出す。すなわち、刑罰は正義にかなった制度への違背、公正に分かち合うべき負担の回避として理解されることになる。最後に、筆者はフェアプレイ論に対する批判を検討し、それらに対する応答が可能であることを確認し、刑罰のフェアプレイ論が一定の頑強さを備えた理論である、と結論づける。
 本論文には、紙幅の制約上、やや舌足らずではないかと思われる表現や、考察、検討が不足気味の論点が残されていることは否定できない。しかし、明確な問題設定、豊富な勉強量に支えられた考察されるべき論点の適切な抽出、対立する意見を丹念に検討した上で出されるフェアな評価など、筆者の法哲学者としての技量の高さは、特筆すべきものであり、後の筆者の法哲学者としての飛躍が期待できる。以上の理由から、本論文は学会奨励賞に値するものと評価された。

論文部門

森 悠一郎
「高価な嗜好・社会主義・共同体──G.A.コーエンの運の平等主義再検討」
(『法と哲学』第2号、2016年5月刊行)

学会奨励賞選定委員会の講評

 本論文は、「高価な嗜好を有する者がその機会を奪われるような場合、それに対する補償を行わなければならないか」という、比較的限定されてはいるが運の平等主義の意義と射程に大きくかかわる問題に焦点を絞り、これに対するG.A.コーエンの理論的見解に一定の評価を与えつつも、そこに内包される問題点を析出する意欲的な試みである。
 まず本論文は、高価な嗜好をめぐりコーエンとR・ドゥオーキンの間で交わされた論争を丹念に跡づけ、そこからコーエンの主張の特徴をつかみ出すとともに、その主張がコーエンのより基礎的なコミットメントである社会主義社会の理想と整合するのかと問う興味深い構成となっている。また、こうした理論的検討を行う際の論旨の展開は明快であり、周辺的な議論への目配りについても怠りがない。
 特筆すべきは、厳然たる運(brute luck)は制度によっても作られるというコーエンのこだわりが、著者の問題関心とも重なるようにも思われる点、つまり、執筆動機の内発性が感じられる点である。著者は、制度が生み出す厳然たる不運という視角には、自由市場におけるノーマルでない少数者に向けられたインフォーマルな差別の存在を可視化する実践的含意があると評価するが、この独自の考察が今後どのような議論へと発展していくのか期待される。
 文章表現や問題関心の共有の可否により評価が分かれる可能性はあるものの、本論文は今後の発展を大いに期待させる作品である。以上の理由から、本論文は学会奨励賞に値するものと評価された。 

日本法哲学会奨励賞への推薦のお願い[2018年期] (2017年10月2018年9月分)

 日本法哲学会では、法哲学研究の発展を期し若手研究者の育成をはかるために学会奨励賞を設けています。

2019年度[2018年期]受賞候補作について、次の通り、日本法哲学会会員による推薦を受け付けますので、ご推薦いただきますようお願いいたします。自薦/他薦を問いません。(詳しくは日本法哲学会奨励賞規程をご参照ください。)

対象作品
2017年10月1日から 2018年9月30日までに公刊された法哲学に関する優れた著書または論文(全体として10万字を超える論文は、著書として扱います。)
刊行時の著者年齢が著書45歳まで、論文35歳までのもの


推薦は、左にありますエントリーシートにより、日本法哲学会事務局の推薦受付用アドレス (prize@houtetsugaku.org) までお寄せください。
自薦の場合には、推薦に際し写しで結構ですから作品一部を添付願います。

上記の写しは、電子データ(ワープロ原稿など)がお手元にある場合には、それを送信いただいても結構です。ただし、公刊されたものと大幅に内容が変わっている場合には、公刊されたもの(著書、論文抜き刷り)またはそのハードコピーを郵送して下さい。
いずれの場合も、2019年度[2018年期]については2019年1月31日が締切となります。同日中に日本法哲学会事務局に到着するよう、お送りください。
選考結果の発表および受賞者の表彰は2019年度学術大会において行われます。

奨励賞選定委員会委員長 亀本 洋 
       同幹事 山田八千子