これまでの受賞者

2015

2015年度 日本法哲学会奨励賞 (2014年期)

 日本法哲学会は、2015年度日本法哲学会奨励賞につき、受賞作なしとする旨を決定しました。

2014

2014年度 日本法哲学会奨励賞 (2013年期)

 日本法哲学会は、2014年度日本法哲学会奨励賞を以下の通り決定し、2014年11月8日に、学術大会・総会が開催された京都大学において、授賞式を行いました。

論文部門

大澤 津
「ロールズ正義論と『意味ある仕事』」
(『法哲学年報2012』、2013年11月刊行、所収)

学会奨励賞選定委員会の講評

本論文は、従来のロールズ研究においてあまり注目されることのなかった「意味ある仕事」という概念について、正義論や公共的理性論と関連づけながら緻密に考察している点で独創的かつ野心的であり、またロールズ正義論の人間論的な側面を扱っているという点で興味深い論考である。また形式的な側面から見ても、全体的に考察の進め方が論理的に洗練されており、紙幅の制約にもかかわらず、論旨は明晰である。
本論文においては、まず最初に「意味ある仕事」の二つの定義を区別した上で、前期ロールズの正義論においても、後期ロールズの公共的理性論においても、「意味ある仕事」は、(A)独立した各人の善の構想によって定義されるものではなく、むしろ(B)社会的義務を果たすことによる集合的・社会的自己実現という意味に理解されるべきことが、テキスト内在的に示されるとともに、このような理解が、各人の道徳的自由を重視するリベラルな正義論と齟齬をきたしかねないことが、批判的な視点から的確に指摘されている。
もちろん、本論文の主張に対しては、「社会的義務が『意味ある仕事』概念を規定していることは、特定の『善き生』の構想にロールズの正義論が依存していることではなく、社会的義務を規定する彼の正義原理が善き生の構想を制約することを意味し、これは彼の『善に対する正義の優位』の原理に反してはいないのではないか」といった疑問が提起されうるから、さらなる検討の余地がないわけではない。
しかしながら、総合的に判断するならば、本論文は現時点においても既にかなり高い研究レベルに達しているのみならず、今後の研究の進展と深化を期待させるという意味でも、学会奨励賞に十分値すると思われる。

論文部門

松島 裕一
「ノモス・バシレウス考:ピンダロス断片一六九aの解釈と受容」
(『摂南法学』第46号、2013年1月刊行)

学会奨励賞選定委員会の講評

本論文は、従来日本における法思想史研究において長らく見落とされてきた「ピンダロス断片169a」を取り上げ、その欧米における解釈史を丹念に辿りつつ「ノモス」概念について検討を加えた、きわめて有意義な論文である。
筆者が述べるように、この「ピンダロス断片」は我が国では従来、ほとんど主題として扱われてはこなかったものであるが、西欧の法思想におけるその影響力および研究の蓄積を考えると、我が国の法思想史研究者も必ず踏まえておくべきものであると考えられ、この題材を紹介したという点で、本論文にはまず大きな意義がある。もちろん着眼だけではなく、諸説が錯綜する本「断片」の解釈について、著者は論点ごとに諸説を比較検討し、自らの見解も加えながら、狭義の古代法思想以外の研究者にもわかりやすく「断片」の意義を紹介することに成功している。
研究手法の面からも、筆者は、「断片」のギリシャ語原典資料に直接、語学的知識に裏付けられた検討を加えているほか、研究史の動向の紹介においても、独仏を含む海外文献を多く利用しており、かつそれぞれに対する検討、評価も上述のように非常に緻密である。こうした資料研究の手法とその充実度の点でも、本論文は、筆者の法思想史研究者としての潜在能力を感じさせるものである。
本論文の中核は、断片中の「ノモス」という語について慣習説と神法説を対比させつつ行なわれる検討にあると言えるが、その論述は、解釈史研究のスタンスを守りながらもノモス概念そのものの法哲学的考察となってもおり、思想史研究者に限らず法哲学・法学に関心を持つ読者に多くの示唆を与えるものである。
こうした緻密な史料研究を基軸にした法思想史研究は我が国では十分活発であるとは言えないが、本論文が、このタイプの研究を発展させていく上での刺激となることも十分期待できるであろう。
敢えて言えば、後半のシュミットや尾高朝雄における「断片」の受容を評価する部分については、必ずしも論述が十分に展開されたとは言えず、前半の資料研究部分との内的連関が薄いと感じられるところはあるが、一方で、今後より広範な文脈での「ノモス」概念の研究に繋がっていくことを期待させる内容であるとも言える。
以上の理由から、本論文は、学会奨励賞に値すると評価できる。

2013

2013年度 日本法哲学会奨励賞 (2012年期)

 日本法哲学会は、2013年度日本法哲学会奨励賞(2012年期/著書部門2点・論文部門該当作なし)を以下の通り決定し、2013年11月16日に、学術大会・総会が開催された駒澤大学において、授賞式を行いました。

著書部門

伊藤 泰
『ゲーム理論と法哲学』
成文堂、2012年

学会奨励賞選定委員会の講評

本書は,ゲーム理論を用いて法の分析をおこなうことに正面から取り組んだ力作である。ゲーム理論を用いることで法哲学の問題群がどのような変化を遂げるのかという一貫した視点に基づき,ゲーム理論の思考枠組や「フォン・ノイマン―モルゲンシュテルン効用」のような基本概念を丁寧かつ明晰に紹介している本書により,法学者のゲーム理論の理解は格段と進むであろう。しかし,むしろ,本書の優れている点は,ゲーム理論のような法学以外の社会科学の成果を法学へ持ち込む際にありがちな,特定の社会科学の理論の導入の意義を抽象的に示唆することで終わることなく,立憲段階と立法段階,憲法改正,包括的基本権,慣習としての憲法などの法哲学上の重要な実践的な問題について,ゲーム理論の枠組みを用いて分析を試みている点にある。多様な問題群を扱っているためか,既存の個別法理論へ与える具体的影響や分析結果の総括については必ずしも十分には明らかにされていないが,それでもゲーム理論のアプローチの有する豊穣さは十分に伝えられており,本作は学会奨励賞に十分に値すると思われる。

著書部門

木原 淳
『境界と自由―カント理性法論における主権の成立と政治的なるもの』
成文堂、2012年

学会奨励賞選定委員会の講評

本書は、従来軽視されてきた嫌いのある『法論』における理性法論の検討を通して、カントの共和主義的国家構想と、それと連なる世界市民主義的な秩序構想を浮き上がらせる労作であって、手堅い資料クリティークによって提示されるカント国家論は、現在、カント法哲学研究の国際的スタンダードとされるW.ケアスティングの自由主義的な理解に対する有効なアンチテーゼとなっている。カント理性法論は普遍主義的なものと見られる傾向が強かったが、本書は、カントの議論をルソーやロックのそれと丹念に対比させながら、さらに彼の「可想的占有」観念の分析に基づいて、その通念を批判し、それが「父なる大地」に対する「パトリオティズム」をその根底に持つところのエスニックな主権秩序を目指すもの、つまり、「国民主権的な枠組みを取る理性法空間の構想」であることを抉り出した。だからこそ、カントは公法を優位させ、抵抗権を否認し、主権国家が併存する国際法秩序を前提とした「世界市民社会」の構築を展望したのだという。グローバリズムに対抗する文脈でカント国家論の意義を再定位しようとする、刺激的な問題提起である。

2012

2012年度 日本法哲学会奨励賞 (2011年期)

 日本法哲学会は、2012年度日本法哲学会奨励賞(2011年期)について審査しました。残念ながら本年度は受賞作なしという結論となり、学術大会・総会が開催された関西学院大学において授賞式は行なわれませんでした。

2011

2011年度 日本法哲学会奨励賞 (2010年期)

 日本法哲学会は、2011年度日本法哲学会奨励賞(2010年期)について審査しました。残念ながら本年度は受賞作なしという結論となり、学術大会・総会が開催された一橋大学において授賞式は行なわれませんでした。

2010

2010年度 日本法哲学会奨励賞 (2009年期)

 日本法哲学会は、2010年度日本法哲学会奨励賞(2009年期/著書部門2点・論文部門該当作なし)を以下の通り決定し、2010年11月20日に、学術大会・総会が開催された西南学院大学において、授賞式を行いました。

著書部門

河見 誠
『自然法論の必要性と可能性―新自然法論による客観的実質的価値提示』
成文堂、2009年

学会奨励賞選定委員会の講評

著者は本書において、「正しさの基準を構成する内容として実質的価値の客観的提示……が可能である、とする新自然法論の検討を中心に据える」ことによって、「『どうして』法とその解釈適用が『正しい』と言えるのか、という正しさの基準を探求し、説得力のある形で実定法学に提示」しようとする。新自然法論に基本的に依拠する本書の最大の特徴は、一方では近代リベラリズムの知的遺産と真摯に対峙することによって個人的な生の多様性と自由な選択を承認しつつも、他方では、価値や規範を事実に還元することを拒否する「反還元主義」の立場から、あえて法的な正しさの基準を構成する実質的価値を客観的に提示すようと試みている点に認められる。法実証主義が現代法哲学における主流を占め、自然法論が圧倒的な少数派になっている現代において、本書のこのような問題意識は、まさに法思想の現状に対する果敢な知的挑戦として学問的評価に値する。

論文部門

松尾 陽
「法解釈方法論における制度論的転回―近時のアメリカ憲法解釈方法論の転回を素材として(1)(2・完)」
『民商法雑誌』140巻1号、2号・2009年

学会奨励賞選定委員会の講評

本論文は、1950年代から現代に至るアメリカ合衆国における憲法解釈の方法をめぐる論争を、その背後に合衆国憲法を建国文書として戴くアメリカの民主政において議会と裁判所の果たすべき役割についての見解の相違があるとみて、憲法思想史および法哲学の観点から代表的論者を取り上げつつ、詳細に検討するものである。考察の出発点は、司法審査を通じて多くの積極的な判決を導き出したウォーレン・コートである。これに対する保守派からの反撃手段が、憲法のテキストまたは制定者の意図に忠実な解釈をすべしという、原意主義と呼ばれる解釈方法論である。原意主義論争とそれに続く制度論的展開に関する検討は、裁判所と議会が実際に何ができ、それをした場合に、議会や他の裁判官にどのような影響を及ぼすかという観点から民主政のあり方を考察するものである。本論文における諸説の整理・分析は説得的であり、解釈法学的意義も大変大きい。

2009

2009年度 日本法哲学会奨励賞 (2008年期)

 日本法哲学会は、2009年度日本法哲学会奨励賞(2008年期/著書部門2点・論文部門該当作なし)を以下の通り決定し、2009年11月14日に、学術大会・総会が開催された関西大学において、授賞式を行いました。

著書部門

濱 真一郎
『バーリンの自由論―多元的リベラリズムの系譜』
勁草書房、2008年2月

学会奨励賞選定委員会の講評

 著者は本書でバーリンの消極的自由と積極的自由との対比をめぐる従来の議論から、一歩先へ進み、ラズやグレイやシュクラーなど、バーリンと共通点もあるが重要な相違もある思想家との比較検討を行いつつ、「最小限に品位ある社会論」の再構成を目指す。その際に、「多元論的リベラリズム」という表現をどう合理的に説明するかが、バーリンの新たな課題となるが、価値多元論とリベラリズムの間に「弱い心理学的結びつき」テーゼを主張して、強い結びつきを築こうとするものと、弱いテーゼを無に帰して結びつきを解体するものの両極を退ける。反ユートピア思想がこうした位置づけの背景をなしている。本書は、内外の関連文献を渉猟し、引用における註のつけ方も懇切丁寧で正確を期しており、バーリンの生涯にわたる議論を射程に入れる年季の入った本格的力作である。これからバーリンの研究に取り組む研究者にとっては、必ずや参照すべき基本的文献となるであろう。

著書部門

橋本 祐子
『リバタリアニズムと最小福祉国家―制度的ミニマリズムをめざして』
勁草書房、2008年1月

学会奨励賞選定委員会の講評

 著者は本書で福祉国家の検討を中心的なテーマとして、リバタリアニズムの観点から、平等主義と無政府資本主義という二つの主張を斥け、「最小福祉国家」の正当性を論証し、そのあるべき法秩序をさぐっている。本書における数人のリバタリアン理論家の検討は簡潔ながら各人の思想の内在的理解に基づいており、平等主義の批判的検討も内部の「何の平等」論争にこだわらず、より根本的な論点をついているため、どれも熟読の価値があるが、白眉は最終章で「最小限の福祉への権利」を擁護する部分である。ここには著者の理論的誠実さと思考の深さが一番よく表れている。全体として本書は、瑣末な論点を追うかわりに正義論と規範的法理論の本質的な諸問題に考察を絞り、オリジナルで明晰な議論によってリバタリアニズム理論の水準を向上させ、福祉国家論に大きな貢献をする、骨太の業績である。

2008

2008年度日本法哲学会奨励賞(2007年期)

 日本法哲学会は、2008年度日本法哲学会奨励賞(2007年期/著書部門1点・論文部門該当作なし)を以下の通り決定し、2008年11月22日に、学術大会・総会が開催された学習院大学において、授賞式を行いました。

著書部門

安藤 馨
『統治と功利―功利主義リベラリズムの擁護』
勁草書房、2007年5月

学会奨励賞選定委員会の講評

 法哲学の学界でも倫理学界でも今日ほとんど正面切った支持者のいない功利主義を批判に対して復活させようとする気宇壮大な試みであり、その大胆さ・独創性はいくら高く評価しても過大評価にならない。功利主義内部のさまざまのヴァージョンについても詳細で正鵠を射ている紹介・検討がある。功利主義の研究者はむろんのこと、正義論や倫理学に関心を持つ研究者にとって、この本を無視することは許されない。文章は読者に予備知識を要求しすぎて難解なところもあるが、もっとわかりやすく書こうとしたら、ずっと長大な本になってしまっただろう。ただベンサムと同様、功利主義を一次的には統治のための思想として理解する以上、法制度と法理論への含意がいま少しほしいが、これは著者の将来の研究への期待としたい。

2007

2007年度日本法哲学会奨励賞(2006年期)

 日本法哲学会は、2007年度日本法哲学会奨励賞(2006年期/著書部門2点・論文部門1点)を以下の通り決定し、2007年11月10日に、学術大会・総会が開催された同志社大学において、授賞式を行いました。

著書部門

金井 光生
『裁判官ホームズとプラグマティズム―〈思想の自由市場〉論における調和の霊感』
風行社、2006年2月

学会奨励賞選定委員会の講評

 3部(9章)構成の本書は、「神秘の降誕―プラグマティズムの引力と斥力」(Ⅰ部)、「アポロの竪琴―ホームズのプラグマティズム法学」(Ⅱ部)、「天体の音楽―ホームズ裁判官の名推理」(Ⅲ部)という各部表題が示すように、名裁判官そしてプラグマティズム法学の先駆者として有名なホームズの法思想全体を、従来の混迷したホームズ理解を批判的に検証しつつ、パース流の実在論的真正プラグマティズムの基本視座から体系的に再構成し、新たな知見を付け加えたものである。とりわけ、〈思想の自由市場〉論に収斂するホームズ法思想の実践面の考察(Ⅲ部)は示唆に富み且つ先行研究に見られない先見性が認められる。もっとも、例えばプラトンやカントの哲学とホームズとの思想史的連関性についての言及が物足りないなど課題も若干残されているが、本書が向後も学界に貢献しうる著者の力量を実証するに足る労作であることは十分認められる。

著書部門

大森 秀臣
『共和主義の法理論―公私分離から審議的デモクラシーへ』
勁草書房、2006年6月

学会奨励賞選定委員会の講評

 本書は、奇を衒わない平明な表現で、現代の主要な政治哲学上の立場であるリベラリズム・共同体論・「審議-参加型共和主義」の対立点を手際よく整理検討し、第3の「共和主義」に与する自己の立場を明確に打ち出している。共和主義の法理論に向けて、遵法義務論を試みるなど、重要な法理論上の問題のいくつかを広い視野で意欲的に取り上げている。対抗理論となるリベラリズムについては、その長所を十分に理解した上での批判とは言いがたい部分もあるが、まんべんなく主要な論点を取り上げている。自己の立場に近いハーバーマスに対してはさらに批判的な読解が望まれるが、その主張を正確に捉え、立論に有効に活用している。ハーバーマスの主張がリベラリズムのそれと本質的に相容れないものかどうか、決定的な問題だけに、権力が自由を侵しうるものであると同時にそれを保障するものでもあるという両義性を十分に自覚した権力問題の考察とともに、将来の課題とされたい。今後も持続的に研鑽を積めば見事な開花が期待されるので、学会による奨励にふさわしい作品と評価する。

論文部門

瀧川 裕英
"Can We Justify the Welfare State in an Age of Globalization? Toward Complex Borders",
in: Archiv für Rechts- und Sozialphilosophie, Vol. 92, Heft 1 (2006).

学会奨励賞選定委員会の講評

 政治的責務の特殊性と普遍的価値との関係という法哲学の根本問題をグローバル化時代における福祉国家のあり方というアクチュアルな問題との関係でとりあげ、自己の立場を明快な議論で打ち出している。規範的議論に分析的緻密性を与えようとする意志が明確に読み取れ、かなりの程度、それに成功している。ただし、課題設定が野心的な割には、議論が簡略にすぎるとの印象もある。特に Complex Bordersの概念は着想としては面白いが、制度設計上のfeasibilityをこれがもつのかという問題が検討されていない。また国際的分配的正義の問題に関する検討も不十分である。しかし、今後の更なる議論展開のための理論枠組はしっかり提示しており、学会奨励賞に十分値する。

2006

2006年度 日本法哲学会奨励賞(2005年期)

 2006年度日本法哲学会奨励賞(2005年期)は、著書部門・論文部門ともに該当作がありませんでした。

2005

2005年度 日本法哲学会奨励賞(2004年期)

 日本法哲学会は、2005年度日本法哲学会奨励賞(2004年期/著書部門・論文部門、第1回)を以下の通り決定し、2005年11月12日に、総会・学術大会が開催された南山大学において、授賞式を行いました。

著書部門

大江 洋
『関係的権利論:子どもの権利から権利の再構成へ』
勁草書房、2004年3月

学会奨励賞選定委員会の講評

 候補著書は、強固な意志と合理的判断能力を備えた成人健常者を想定する伝統的な権利概念を抜本的に検討しようとするものである。権利とそれを支える理論は、少なくとも近代において、個人の確立と個人を基盤とする社会の構想を具体化するという歴史的な役割を果たしたが、現代では、子供、障害者、高齢者など多様な人間を重視する社会環境の中では時代遅れとなりつつある。候補著作は、子供の虐待に焦点をあわせ、子供の権利を論じることを通して、権利は、さまざまな関係性を考慮することによって、柔軟性を備えたものとして構想すべきであるという主張を展開している。権利という道具と理論の技術革新を図ろうとする意欲的な試みとして高く評価できる。
 しかし、候補著書は、アメリカ合衆国の新しい理論を批判的に検討して議論の手がかりとしているが、伝統的な日本の権利論がなぜ、どのような形で虐待との関係で子供の権利の保護に失敗したのかを明確にしていない。さらに、議論の核心をなす「関係性」については、多々検討を加えているが、実際の事件処理の中でどのようにその関係性が伝統的な権利概念以上に威力を発揮するのかの論証も必ずしも十分とはいえない。
 それにもかかわらず、選考委員会が候補著書を推薦するのは、権利という法学の基本概念の革新に挑戦し、成人ではなく、子供という斬新な観点から問題を分析することによって、革新の一つの方向を示したこと、さらに子供の権利を論じることによって、抽象的個人ではなく、具体的で多様な人間に適用できる権利論の必要性を明示したことを高く評価したからである。著者が関係的権利論を今後より具体化し、法実務においても参照されるだけの有効な理論に成長させることを期待する。

論文部門

大屋 雄裕
「規則とその意味──法解釈の性質に関する基礎理論(1)~(5)完」
国家学会雑誌116巻9-10号~117巻9-10号、2004年10月

学会奨励賞選定委員会の講評

 候補論文は、規則適用のパラドクスをめぐるソール・クリプキの議論及びそれに対する一つの解答としての野矢茂樹の「根元的規約主義」に主として依拠しつつ、法の解釈・適用のプロセスに新たな分析の照明をあてるもので、そこから導かれる論者の見解は基本的に野矢理論に基づいているが、議論の鋭利さや構成の巧みさに加え、こうした観点からの本格的な法哲学的検討はこれまでなかったことに鑑みて大きな意義をもっている。個別には、わが国の法解釈学論争を新たな観点から検討している点、解釈をめぐるドゥオーキンとフィッシュの間に論争にも関わらず共通する側面のあることを指摘している点、後期ヴィトゲンシュタインに依拠する法理論を批判的に検討している点、根元的規約主義に基づいた法理論の可能性、とくに法の解釈・適用を根本的に対論と説得のプロセスとして捉える分析的法理論の可能性を示唆している点など、重要な理論的成果といえる。
 候補論文には問題点もないわけではない。まず、結論部分において導き出された法の特徴づけはなお基本的なものにとどまっており、ここからどのような具体的法理論が整合的に帰結するかが大いに問われるだろう。また、「普遍信仰」や「不可視の基礎づけ主義」といった批判的概念により、リベラルな普遍主義に基づく法理論などに対して鋭利な批判を展開しているが、批判対象の適切な理解に基づいているかどうか、疑念が残る。とはいえ、これらは本論文の意義を損なうものではなく、今後さらに論争提起的な法理論への展開が望まれる。