2025年度学術大会
移民難民問題と法哲学

日 程:2025年11月29日(土)・30日(日)
場 所:早稲田大学 早稲田キャンパス(国際会議場)


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締切は2025年11月14日(金)17:00です。

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統一テーマ
「移民難民問題と法哲学」について

横濱竜也(静岡大学)


 今年度大会の統一テーマ「移民難民問題と法哲学」が扱うのは、大括りにいえば、「移民・難民をどのように受入れるべきか」という問いである。この問いは、近時先進諸国で非常にホットなイシューとなっている。アメリカでは2025年にドナルド・トランプが大統領に就任してから、いわゆる非正規移民の大規模な送還に乗り出しただけでなく、一時的保護の対象であった外国人も本国に送還する措置がとられてきており、国籍取得の出生地主義を見直す方針を打ち出している。ヨーロッパにおいても、たとえばイギリスやフランスでは、ここ20年ほど移民受入れの見直しが行われており、非正規移民についても本国とは別の第三国に送還する制度が構想されたり実際に制定されたりしている。日本では、近時の参議院議員選挙にて外国人受入れが主要争点のひとつとなり、外国人労働者受入れ、非正規滞在者への対応、多文化共生などが議論された。
 このように、今年度の統一テーマは、(半ばは図らずして)きわめて現在の情況に呼応するものとなった。しかし、私たちが主眼としているのは、いま取沙汰されている諸問題に直接答えることだけではない(もちろん議論のなかで言及されることは多くある)。むしろ、移民や難民の正義に適った処遇がどのようなものであるかを明らかにする、移民正義・難民正義(以下まとめて「移民正義」とする)の理論を、法哲学(また政治哲学)的に探究することにある(この点で、日本の移民難民問題への実践的対応をより注視する1日目のワークショップとは、関心のウエイトの置き方が異なっている)。このような理論の探究にあたり、外国人の入国管理、移民労働者受入れ、難民受入れ、移民・難民の政治統合、移民・難民の社会統合という5つの論点をとりあげて、個々に報告を行っていただき、それを受けて2人のコメンテーターから総括コメントをいただく形をとることとした。登壇者の議論とシンポジウムが、移民正義を考える手がかりとなることを願っている。
 とはいえ、急いで付けくわえれば、このような論点の設定自体が論争的である。まず指摘すべきは、移民と難民との区別が、主として難民条約(1951年採択、1967年に難民の定義における時間的制約を外した議定書採択)など難民保護に関連する諸条約やガイドライン等により形作られてきたものだということである。「難民を受け入れるとは・・・・・・、統治や人権保障が機能していない本国において著しく差別されている人を本国政府の代理で他国がかくまう行為である」(橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか』岩波書店、2024年、14頁)。しかし、このような難民と、貧困や暴力などから逃れる移民、さらによりよき雇用機会を求めて移動する移民などとを、別扱いすることあるいは別扱いしないことが正義に適うのかどうか、問い直される必要がある。第二に、「受入れ」という言葉を使うことで、境界を越え滞在する側と境界の内側で受入れる側とを対置し、後者の目線で、とりわけ受入国の都合で、移民・難民を扱うことを前提としがちである。しかし、移民や難民の目線から、彼らの多様性や当事者性に注視して諸制度・諸政策を見直すべきだという議論もある(難民に関して、堀井里子編著『難民レジームと当事者性』明石書店、2025年、11-12頁)。第三に、移民・難民の政治統合また社会統合について、「統合」が何を意味するか、またそもそも「統合」すべきなのかどうかが問われなくてはならない。各報告では、このような論点設定の論争性をも踏まえた議論をしていただく予定である。
 しかし、それではどのような意図でこれらの論点をとりあげようと考えたのか。統一テーマの議論における公平のためにも、企画責任者としての見方を示しておきたい。ベースにあるのは、移民・難民の社会的包摂がいかに図られるべきかという問いこそが、移民難民問題への応答の鍵だという見立てである。ビザを得て正規で入国できるだけでは足りない。その先で、移民や難民が安定して雇用されなかったり、言語教育を含め、社会で生きていくために必要な教育を受けられなかったり、居住環境で隔離されたりなどして、社会の主流とのあいだに厳然たる格差が残るのであれば、それは正義に反する。そういったことがないようにするために、受入社会はいかに対応すべきか、この問いに答えずして入国管理の望ましいあり方を示すことはできないのではないか。つまり、移民正義を論じるうえで、移民・難民の社会的包摂さらには受入社会への統合がいかにあるべきかは、先行して取り組まれるべき問題ではないか。先進諸国のいわゆる「排外主義」の背景に移民・難民の社会的排除があることはしばしば指摘されており、それへの対応をまず論じなければ実現可能な規範的議論にはならないだろう。
 そして、移民・難民の社会的包摂という課題は、受入社会において彼らが平等に処遇されるために、誰がどれだけの負担をなぜ負うべきかという問いを惹起せざるをえないだろう。むろん、この問いは国境を越えた正義の問題でもあるし、あわせて国境を越えた人の移動の管理がいかに正当化されうるかという問題とも関わる。しかし、他方、主権国家体制のもとでの社会給付制度が、基本的に国家単位で、各国に帰属するメンバーを対象にしていることを考えれば、国家のメンバーシップがいかにあるべきかに答えることが必要になるはずだ。このようにして、移民難民問題はシティズンシップ論とも結びつく。
 企画責任者の思い描く構図は、ごくおおざっぱには以上のようなものであるが、それに対しては理想理論と非理想理論の関係や、社会権をはじめとする人権保障の根拠と望ましい責任分担などの観点から疑問が投げかけられることであろう。しかし、より根本的な批判は、移民・難民の権利保障の基盤に置くべきは、国家への帰属の必要性ではなく、移動の必要性だとする議論である。入国管理法制上においても、国家帰属がない外国人も上陸したり在留したりする資格を持つし、移動しなければ重大な害悪を被る場合、あるいは移動なしでは手に入れられない重要な財が存在する場合、移動の自由を保障することが正義の要請となる。このように考えていけば、人権保障と国家帰属とを結びつける発想は相対化されるべきであり、帰属を問わず、正義を実現する責任を負う法治国家に居住する権利を保障することこそ肝心要である、ということになろう(瀧川裕英「帰属でなく移動を」広渡・大西編『移動と帰属の法理論』岩波書店、2022年、第2章)。
 こういった批判に対して、個人の帰属と人権保障を、排他的に領域支配を行うひとつの国家のみに求めるのではなく、帰属と人権保障の多元化を一定程度認める立場から、反論を試みる余地もあろう。あるいは、帰属をめぐる政治の重要性を説く応答もあるだろう。国境を越える人の移動が日常的なものとなるグローバル化において、非正規移民正規化をめぐる争いなど、国境内において完全なメンバーとして扱われない人々の処遇が絶えず取沙汰される。領域的に境界づけられた特定の国家だけに帰属先を求めることはできないかもしれないが、しかしだからといって帰属の規範的意義が失われるわけではなく、むしろより先鋭に問われることになる。
 如上のように、移民正義論上の諸問題については、それをどのように解決すべきかだけでなく、どのような構図の下で扱うべきかが問われるのである。本統一テーマの報告・コメントをとおして、問題構図自体の論争へと議論を開くことをも期待したい。

11月29日(大会1日目)
[午前の部]
〈個別テーマ報告〉
《A分科会》村田陸・齋藤暁・福島涼史
《B分科会》一原雅子・村尾太久・島亜紀
[午後の部]
〈ワークショップ〉
《Aワークショップ》
「入管行政と法の支配」
(開催責任者:浦山聖子(成城大学))
《Bワークショップ》
「法現象学の可能性:思想史および現代法理論からの模索」
(開催責任者:宮田賢人(小樽商科大学))
〈総会〉
11月30日(大会2日目)
〈統一テーマ報告〉
[午前の部]
横濱竜也(静岡大学)
「統一テーマ「移民難民問題と法哲学」について」
浦山聖子(成城大学)
「国家による外国人に対する入国在留管理はいかにあるべきか」
大西楠テア(東京大学)
「移民労働者の受け入れと移民の「権利」―滞在をめぐる法的地位に注目して」
柄谷理恵子(関西大学)
「「難民の受け入れはいかにあるべきか」:難民を受入れるとは―国際難民制度から考える」
宮井健志(国立社会保障・人口問題研究所)
「移民・難民の政治的権利を問い直す―オーサーシップ、支配への抵抗、民主化」
[午後の部]
石山文彦(中央大学)
「移民難民の社会統合―問題の所在と目標の模索」
瀧川裕英(東京大学)
「移動の自由とセキュリティー(総括コメント①)」
佐藤成基(法政大学)
「移民難民と国家(総括コメント②)」
シンポジウム「移民難民問題と法哲学」
司会 横濱竜也(静岡大学)・山田八千子(中央大学)

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