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統一テーマ
「AIと法」について
大屋雄裕(慶應義塾大学)
1.AIの発展と法
人工知能(AI; Artificial Intelligence)技術の急速な発展については、報道でも連日のように取り扱われているだろう。音声認識を利用した口述筆記は、すでにMicrosoft Wordにも標準機能として組み込まれている。出張先のホテルの価格は需給状況を分析するAIによって動的に調整され、学生はDeepLなどの自動翻訳サービスを利用してレポートでの不正行為を企て、ブラウザは私の個人情報を記憶していて自動的な入力の補完を提供してくる。かつてはまさにSF的想像力の対象だった汎用人工知能(AGI; Artificial General Intelligence)ですら、人によっては2030年代に実現すると予想するようになっている。
技術の発展を受け、我々の社会がそれに対してどのような対応を選ぶか、それをどのような法により実現するかといった議論も現実化してきた。AI技術の恵沢を活用できる社会のあり方について提言した我が国の「人間中心のAI社会原則」はすでに2019年に策定されており、EUでは包括的な規制のあり方を定めたAI Actが今年になって制定されている。この統一テーマが提案されてから現実化するまでの5年間に、AIは将来における可能性/危険性への想像に基づいた議論の対象から、現に存在する技術に対する実定法的な規制の対象へと変貌したのである。
さらに言えばそこでは、これまで我々が積み重ねてきた法的実践や法学的な営み自体も問い直される状況にある。被告人の再犯確率を予測するなど、裁判に対する支援を提供するAIはすでに実用化されている。契約書の審査を行なうAIサービスも出現し、訴訟に関するさまざまな文書の作成に生成系AIを用いる試みも始まっている。法務省の研究会が取りまとめたように民事事件の判決が原則として全件データベース化されることになれば、それをAIに分析させることで個々の裁判官の評価や抱いている偏見の可視化が可能になるかもしれない。
今回の統一テーマ報告ではこのように、AIという技術が社会と法に対して持つインパクトを総合的に明らかにし、法哲学がこの状況にどう答えるかを考えていただく契機を提供できればと考えている。
2.報告の構成
報告は5名の方にお願いした。まず成原慧会員には情報法の観点を含めAIの発展によってゆらぎつつある自律の問題を扱っていただき、憲法学者である山本龍彦氏による統治の問題の検討と対応させることを目指した。また我々の日常生活に浸透しつつある監視/見守りの問題については、松尾陽会員による理論的な検討に加え、中国を専門とするジャーナリストである高口康太氏から中国社会における実例を含めた検討をお願いした。さらに西村友海会員からは、「計算」という概念を中心に我々の法的実践と法学を問い直す報告を予定している。宇佐美誠会員による総括コメントについては、個々の報告に対するリプライよりも総合的な問題提起をお願いしている。なお関連ワークショップとして、西村友海会員の企画による「「デジタル立憲主義」という研究潮流」が予定されていることを付記する。
11月9日(大会1日目)
[午前の部]
〈個別テーマ報告〉
《A分科会》大上尚史・小園栄作・保田幸子・河村有教
《B分科会》松野有・吉原雅人・工藤郁子・伊藤敬也
[午後の部]
〈ワークショップ〉
《Aワークショップ》
「「デジタル立憲主義」という研究潮流」
(開催責任者:西村友海(九州大学))
《Bワークショップ》
「ナッジ政策・実装上の意義と限界:環境行政と遺伝子差別を題材に」
(開催責任者:瀬戸山晃一(京都府立医科大学))
《Cワークショップ》
「無知がもたらす困難と責任:無知の動機・認識的不正義・適応的選好」
(開催責任者:太田雅子(東洋大学非常勤講師))
〈総会〉
11月10日(大会2日目)
〈統一テーマ報告〉
[午前の部]
大屋雄裕(慶應義塾大学)
「統一テーマ「AIと法」について」
成原慧(九州大学)
「AI社会における自律の揺らぎと再建」
山本龍彦(慶應義塾大学)
「AI、憲法、プライバシー」
松尾陽(名古屋大学)
「監視・見守りの問題とガバナンス」
高口康太(ジャーナリスト・千葉大学客員教授)
「中国のAI社会実装とその課題」
[午後の部]
西村友海(九州大学)
「AI・計算・法的推論」
宇佐美誠(京都大学)
「総括コメント」
シンポジウム「AIと法」
司会 大屋雄裕(慶應義塾大学)・野崎亜紀子(獨協大学)