2005年度学術大会(終了)
現代日本社会における法の支配
―理念・現実・展望―

日 程:2005年11月12日(土)・13日(日)
場 所:南山大学 (名古屋キャンパス)

統一テーマ「現代日本社会における法の支配—理念・現実・展望—」について

深田 三徳(同志社大学)

 現在、わが国で進められている司法制度改革は、明治期のもの、第二次大戦後のものに続く第三番目に大きな制度改革であるといわれている。そして年月の司法制度改革審議会意見書のなかで法の支配が改革の基本理念として語られたこともあり、法の支配に関心が寄せられ、いろいろな学会で議論されるようになった。そして今日では、開発途上国の法整備支援とか、国際社会の平和構築などとの関連でも、法の支配が言及されるようになっている。本年度の学術大会では、この法の支配をテーマとして取り上げ、現代日本社会における法の支配の問題について総合的に検討したいと考えている。

 「法の支配」は、長い歴史、伝統をもっており、さまざまな専門領域でいろいろな意味で使用されている。したがって法の支配の概念については一定の整理が必要である。まず「人の支配」と対置される法の支配は、中世のヨーロッパで始まり、市民革命期を経て、欧米諸国、そして世界各国に広がってきたものである。この近代憲法上の理念は、とくに英米法において法の支配(rule of law)として発展してきたものであるが、ドイツ法などにおいて法治国家(Rechtsstaat)として語られるものもそれに開係している。

 わが国についていえば、戦前は、ドイツの法治国家(形式的法治国家)の影響があったが、戦後は、英米法の影響を受けた法の支配が日本国憲法の基本原理の一つになっているといわれている。それは、憲法の最高法規性の観念、基本的人権の尊重、裁判所に対する尊敬と信頼、適正手続の保障といった要請を中心にして語られてきた。しかし日本国憲法上の法の支配が一体何であるのか、また何であるべきかについては、公法学者たちの間でもいろいろな議論がある。

 司法制度改革審議会意見書において改革の基本理念とされた法の支配の考え方には、審議会の会長であった佐藤幸治の影響があると考えられるが、彼の法の支配論に対しては批判や異論もある。そこで日本国憲法上の法の支配が何であるのか、また何であるべきか、そのような見解の対立をどのように理解すべきかについては、公法学会などでの議論も踏まえて検討していく必要がある。

 また英米独仏といった欧米諸国において、法の支配や法治国家がどのようにして形成され、発展してきたかなどについて、法制史、法思想史、比較法などの観点からも明らかにしていく必要がある。

 法の支配には、欧米諸国にみられる近代憲法上のものと、その影響を受けた日本国憲法上のものがあるが、その他に、政治理念(ないし法理念)としてのものもある。それは、古代ギリシャ・ローマの時代から世紀までの間、多くの思想家や哲学者たちによって、政治や法の在るべき姿、形、方法に関連して説かれてきたものである。このような政治理念としての法の支配論にはさまざまなものがあるが、そのなかには形式的な考え方と実質的な考え方(法の内容に関心をもつもの)との対立があり、両陣営のなかでもいろいろと見解の違いがある。これは、法の支配における「法」をどのように捉えるべきか、またそのような法形成の主体が何であり、法形成の方法がどうであるべきかといった問題と関係している。またこのような政治理念としての法の支配が憲法上の法の支配とどのような関係にあるのかということも重要な問題である。

 法の支配については、これらの他にも検討すべき重要な問題が少なくない。例えば、法の支配を実現するための条件は何であるのか、法の支配に対する批判や懐疑論にはどのように対応すべきかといった問題である。これらについては、第一日目の最初に「法の支配をめぐる諸問題の整理と検討」という報告のなかで触れてみたいと考えている。

 学術大会では、公法学と法哲学の両方の分野から、名の専門家に報告して頂くことにした。各報告者には、統一テーマに関連して、それぞれの問題関心にしたがって報告してもらう考えである。

 まず公法学の分野から、憲法学者の土井真一と高橋和之、行政法学者の中川丈久に報告をお願いしている。土井真一は、佐藤幸治の法の支配論を受け継ぎ、発展させようとする立場から、法の支配と法治国家の統合と均衡を図りながら、自己の見解を披露する予定である。それに対して、高橋和之は、フランスにおける法治国家論などを踏まえながら、「日本国憲法の『法の支配』をフランス的な国民主権モデルで捉えなおしてみようとする」独自の見解を披瀝し、問題提起をする。次に、中川丈久は、わが国の行政法学の視点から、法治国家と法の支配の問題について振り返るとともに、司法制度改革の一つである行政事件訴訟法の改正などがどのような意味をもつものであるかなどについて検討する予定である。

 次に、法哲学の分野から、長谷川晃、井上達夫、服部高宏、石前禎幸に報告をお願いしている。長谷川晃は、英米法思想史と現代法哲学・道徳哲学などの研究を踏まえて、法の支配の意義を捉え直すとともに、それを自由、平等などの諸価値と関係づけて検討する。井上達夫は、「正義の基底性」や「正義への企てとしての法」という自らの考え方を前提にして、法の支配モデルとして、理念化プロジェクトという独自の見解を提示する。また「毅然たる法治国家」の考え方も披瀝して、わが国の司法制度改革の問題点などについても言及する。他方、服部高宏は、ドイツにおける法治国家原理を、「警察国家→法治国家→社会国家」という歴史的展開との関連において説明したうえで、社会国家、法化、連邦憲法裁判所の役割などに触れながら、法治国家に関する現在の議論状況を紹介する。次に、石前禎幸は、アメリカのプラグマティズム法学、リアリズム法学、プロセス法学、ドゥオーキンの解釈的法理論の展開について振り返った後、法の支配の限界に関する批判法学(CLS)の見解などを紹介し、それに対抗しうる法の支配が何であるかについて検討する予定である。

 最後に、法哲学者の田中成明が、コメンテーターとして、二日間にわたる報告と全体の議論についてコメントした後、法の支配について残された課題などについて整理する。また現在進められている司法制度改革の評価や今後の展望についても述べてもらう予定である。

 報告の順番としては、第一日目に、深田が統一テーマの下で議論されうる諸問題について一応の整理をした後、長谷川晃、土井真一、中川丈久、井上達夫が報告する。第二日目には、服部高宏、石前禎幸、高橋和之が順番に報告した後、田中成明がしめくくる。 シンボジウムでは、フロアーからの質問への応答も含めて、活発な議論、討論を期待したい。

1.1 第1日午前の部 <個別テーマ報告>
A分科会(E11教室)
八島 隆之(東北大学博士課程)
     「リバタリアニズムと論理整合的な制度についての試案
       —相続制度否定論とその下で要請される三つの制度—」
内藤  淳 (一橋大学)
     「進化生物学的人間観と人権理論—人権-国家関係をめぐって—」
綾部 六郎 (北海道大学博士課程)
     「「セクシュアリティ」をめぐる平等論のディレンマ(仮題)」
施  光恒(九州大学)
     「リベラル・ナショナリズム論と正義の論じ方」
B分科会(E12教室)
木原  淳(福島工業高等専門学校)
     「パトリオティズムと世界市民主義—カントの所論を出発点としての公共性論—」
森元  拓(北海道医療大学)
     「闘争と正義—イェリネックの公権論における権利/正義—」
土庫 澄子(元東京大学博士課程)
     「ハンス・ケルゼンにおける法規範と正義—全体像理解の試みとして—」
中谷 拓也(明治大学兼任講師)
     「罪悪感論の再検討」

1.2 第1日午後の部 <統一テーマ報告>(DB1教室)
主催校より歓迎の挨拶 ハンス・ユルゲン・マルクス(南山大学学長)
深田 三徳(同志社大学)
     「統一テーマ「統一テーマ「現代日本社会における法の支配理念・現実・展望—」について」
     「法の支配をめぐる諸問題の整理と検討」
長谷川 晃(北海道大学)
     「<法の支配>という規範伝統—一つの素描—」
土井 真一(京都大学)
     「立憲主義・法の支配・法治国家」
中川 丈久(神戸大学)
     「行政法からみた日本における「法の支配」—改正行訴法も含めて—」
井上 達夫(東京大学)
     「法の支配と法の正統性」
第1日目報告に関する質疑応答

1.3 第2日午前の部 <統一テーマ報告>(DB1教室)

服部 高宏(京都大学)
     「法治国家原理の展開」
石前 禎幸(明治大学)
     「法の支配と法の不確定性」
高橋 和之(東京大学)
     「法の支配の分析視座—比較憲法学のための枠組設定—」
田中 成明(関西学院大学)
     「報告に対する総括的コメント」

1.4 第2日午後の部 <総会およびシンポジウム>(DB1教室)

IVR 日本支部総会
日本法哲学会総会
シンポジウム「現代日本社会における法の支配—理念・現実・展望—」をめぐって
    総合司会  酒匂 一郎(九州大学)・那須 耕介(摂南大学)
閉会の辞 竹下  賢(日本法哲学会理事長)

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