2022年度学術大会(終了)
現代法実証主義

日 程:2022年11月12日(土)・13日(日)
場 所:中央大学 後楽園キャンパス

【会場校からのお知らせ】

入構時の注意、会場周囲の飲食店情報などが含まれていますので、ご参照ください。

【訂正】

202210月中旬に発送させていただいた「2022年度日本法哲学会 学術大会・総会 案内」の各教室につき、間違いがございましたので、ここで訂正させていただきます。そのほか、5号館で開催やスケジュールなどの点については、変わりありません。
赤字で示したものが、正しい教室番号となります。

11月12日午前
A分科会: 5階5534教室(訂正なし)
B分科会: 5階5136教室(訂正なし)。
11月12日午後
Aワークショップ: 5階5533教室55534教室から修正)
Bワークショップ: 5階5534教室15136教室から修正)
総会: 5階5533教室55534教室から修正)
11月13日終日
統一テーマ報告・シンポジウム: 5階5533教室55534教室から修正)

統一テーマ「現代法実証主義」 提題趣旨

濱 真一郎(同志社大学)

1.なぜ今、法実証主義なのか

グスタフ・ラートブルフは、ナチスの崩壊後に以下の考えを提示した。すなわち、「法律は法律だ」と主張する法実証主義は、ドイツの法曹がナチスの悪法に抵抗する根拠を失わせることによって、ナチスに荷担した。そこでラートブルフは、道徳に反する制定法は妥当性を有さないと主張するに至った。その後、悪法問題(「ナチスの法も法か」)をめぐってハート対フラー論争が行われた。法実証主義者H. L. A. ハートの主著『法の概念』(初版)が出版されたのは1961年であり、手続的自然法論を擁護するロン・L. フラーの主著『法の道徳』(初版)が出版されたのは1964年である。日本法哲学会が統一テーマとして「法実証主義の再検討」を掲げたのは1962年であった。それから60年後の2022年に改めて法実証主義に注目するとき、念頭に置くべき社会状況としては、20 世紀末から進行が続くグローバル化と、それに伴う立法の役割の変化や法の多元化などがあげられる。あるいは9.11や3.11、さらには新型コロナウィルス(COVID-19)のことも念頭に置く必要があるだろう。(本企画を立案中に、ロシアによるウクライナ侵攻も行われた。)果たして法実証主義は、こうした社会状況において生起する法現象や、法の妥当性や実効性について、適切な分析を行うことができるのか。――21 世紀の今日、改めて法実証主義を問う際には、こうした問いを立てることができるであろう。
最近の英語圏の法哲学界に目を向ければ、ハートの法実証主義的な法理論の評価をめぐって、興味深い理論展開がみられる。あるいは、英語圏の法実証主義者であるジョセフ・ラズと、ドイツ語圏を代表する反法実証主義的な理論家であるロベルト・アレクシーとの間で、論争が起こっている。本年度の統一テーマは、こうした理論展開について検討するために、今、改めて法実証主義に注目する。

2.法実証主義と社会テーゼ

現代の法実証主義において共有されている教義は何か。その候補としては「法と道徳の概念的分離テーゼ」があげられる(以下、「分離テーゼ」と略記する)。ハートによると、このテーゼは、英米の法実証主義の伝統を形成している法哲学者(ジェレミー・ベンサム、ジョン・オースティン、ハート自身を含む)の業績に見出される主要なテーゼである。
なお、分離テーゼは、「(法と道徳の)必然的結びつきの不在テーゼ(no necessary connection thesis=NNC thesis)」と同一視されることがあるけれども、今日のすべての法実証主義者が、NNCテーゼを含意する分離テーゼを擁護しているわけではない。
とすると、今日のすべての法実証主義者によって共有されている教義は何か。それは社会テーゼである。これは、法の存在と内容は、社会的事実を参照することによって――当該の法規範の善し悪し(merit)を参照するのではなく、その社会的源泉(例えば、法律が庶民院および貴族院において可決されたという社会的源泉)を参照することによって――確定される、というテーゼである。

3.現代法実証主義論争

(1)「現代法実証主義」について

初期の法実証主義者たちは、法とは何かを確定する社会的事実を、政治的主権者に関わる社会的事実と捉えていた。それに対して現代の法実証主義者たちは、社会的事実について考慮する際に、社会的ルールに注目している。すべての社会には、法とは何かを確定するための社会的ルールが存在する。ハートはこうした社会的ルールを第二次的ルールと呼ぶ。第二次的ルール中でとくに重要なのは承認のルールである。これは、法的に妥当する規範とそれ以外を区別するための基準(criteria)を示すメタ的なルールである。ハートのこの議論は、20世紀の哲学における言語論的転回を踏まえたものとなっており、現代法実証主義の法理論と称するにふさわしいであろう。

(2)現代法実証主義論争

現代法実証主義をめぐる論争としては、先述のハート対フラー論争に加えて、ハート対ドゥオーキン論争がある。法実証主義に批判的なロナルド・ドゥオーキンによると、ハートの承認のルールでは、ルールとは違った性質や機能を持つ原理を捉えることができない。ドゥオーキンは、基準によって法が同定されるというハートの考え方に対しても批判的である(「理論的不同意」の問題)。
次に、現代法実証主義の内部における三つの論争を概観しておこう。①ハートは社会テーゼを擁護するけれども、承認のルール次第では、ある法体系に道徳的原理が組み入れられる場合がある、という考えを提示している(ソフトな法実証主義)。この考えにはラズからの批判がある(ラズは厳格な法実証主義を擁護する)。②ハートの立場は基本的には、発展した法体系に共通する特徴を道徳的に中立的な仕方で説明するという記述的法実証主義である。それに対して、トム・キャンベルやジェレミー・ウォルドロンは規範的法実証主義の擁護へと向かう。彼らにとって、承認のルールが示す基準には、「道徳と分離されていること」という一般的特徴が含まれるべきである。③キャンベルとウォルドロンの主張の背景には、民主的正統性を有する議会が制定する法が、裁判所による「道徳的読解」(ドゥオーキン)によって歪められることがあってはならないという、民主政の擁護論が存在している。彼らが念頭に置く法解釈の方法が、アントニン・スカーリアの原意主義という解釈方法と同じであるかについては、検討すべき重要論点の一つである。それから、ウォルドロンの主張の背景には、人々は正しい(just)国家の法を支える自然的義務を有しているのだという、遵法責務に関する議論も存在する。

4.論争を深めるための着眼点――法の実定性と法理論の普遍性

最後に、現代法実証主義をめぐる論争を深めるための二つの着眼点を示しておきたい。第一は、法の実定性(positivity)という価値をどのように評価するか、という着眼点である。自然法論者のジョン・フィニスによると、この価値は、法実証主義者であれ自然法論者であれ、擁護できることのできる価値である。第二は、法理論の普遍性という問題をどのように受け止めるか、という着眼点である。すなわち、欧米の法実証主義の法理論は、地域限定的なものであるのか、あるいは普遍的なものであるのか、という着眼点である。

5.各報告の概要

各報告者およびコメンテータには、以上で示した理解を共有するのではなく、むしろ、それぞれの関心や立場から自由に報告していただく。報告にあたっては、①「なぜ今、法実証主義なのか」という問いや、②現代法実証主義者が擁護しているのはNNCテーゼを含意する分離テーゼはなく、社会テーゼであるという理解や、③法の実定性という価値や、④法理論の普遍性の問題や、⑤「法の一般理論としての法概念論は何のためか」という問いかけや、⑥それぞれの報告において憲法、民法、刑法(あるいは行政法)のいずれを前提にしているのかについて、念頭に置くようお願いしている。
前半の三報告は、記述的法実証主義ないし一般法理学の擁護可能性について論じる。近藤報告は、ウィリアム・トワイニングの経験的なソシオ・リーガル・セオリーに注目し、法理学・法哲学の側からトワイニングにどれだけ近づけるかを検討することによって、記述的法実証主義ないし一般法理学の擁護可能性を示す。浅野報告は、従来の(国家法を念頭に置く)一般法理学に対して見直しを迫る法多元主義について検討する。具体的には、国家法への遵法責務という従来の問題設定を超えて、非国家法への遵法責務は存在するか、という問題に取り組む。さらに、義務づけを伴わない非国家法について、遵法責務論がどのようにアプローチできるかについても検討する。戒能報告は、第一に、ベンサムは記述的法実証主義を擁護していたというハートの理解を批判する。第二に、実はベンサムの議論には、世界各国の「ある法」のより良い理解を促す面もあったとし、ベンサム流の(ハートのそれとは異なる)「記述的」法実証主義および普遍的な説明的法理学の提示を目指す。
後半の三報告は、法実証主義の主戦場は立法府か、それとも司法府か、という論争的な問題について取り扱う。横濱報告は、R. ドゥオーキンの提示した理論的不同意の問題を真剣に受け止めて、民主制の認知的正当化をめぐる議論などを踏まえつつ、規範的法実証主義の議論に依拠して議会主権を擁護する。さて、立法府の尊厳を規範的に擁護する横濱報告は、司法府を念頭に置く早川報告および酒匂報告と、鋭い対比をなすことになる。早川報告は、法実証主義の法理論がいかなる法律学的方法論(とくに司法的裁定論)を提示できるかについて論じる。その際、アメリカにおける新しいオリジナリズム(原意主義)の動向を、ドゥオーキンおよびアレクシーの原理論法と対比させつつ、議論を展開する。酒匂報告は、ラートブルフの理想主義に依拠して、法実証主義とは異なる法理論を提示する。さらに、アレクシーの比例性原則に基づく司法審査に関する議論についても取り上げる。これは、比例性原則に基づく司法審査が「グローバルモデル」となりつつあるという指摘との関連で、法理論の普遍性という問題とも関連するであろう。
中山総括コメントについては、各報告へのコメントと同時に、コメンテータ独自の議論を提示することもお願いしている。シンポジウムでは、現代法実証主義をめぐる諸問題について、登壇者と会場との間で活発な議論が行われるよう努めたい。それから、学術大会では関連ワークショップ「法実証主義の比較思想史」が開催されることを付記する。

1112日(大会1日目)
[午前の部]
〈個別テーマ報告〉
A分科会》三浦基生・小林正士・中村悠人・木山幸輔
B分科会》――――・小川亮・山本展彰・城下健太郎

[午後の部]
〈ワークショップ〉
Aワークショップ》
「法実証主義の比較思想史:19世紀から20世紀まで」
(開催責任者:近藤圭介(京都大学))
Bワークショップ》
「リーガル・リアリズム再考:K.ルウェリンの多角的検討を通じて」
(開催責任者:菊地諒(立命館大学))
〈総会〉

11月13日(大会2日目)
〈統一テーマ報告〉
濱真一郎(同志社大学)
「統一テーマ「現代法実証主義」について」
近藤圭介(京都大学)
「グローバル化と法実証主義の再定位:一般法理学のあり方をめぐって」
浅野有紀(同志社大学)
「法実証主義における遵法義務と法多元主義」
戒能通弘(同志社大学)
「ベンサムの法理論の前提と普遍性」
横濱竜也(静岡大学)
「理論的不同意を真面目に考える:規範的法実証主義の可能性」
早川のぞみ(桃山学院大学)
「アメリカ合衆国におけるオリジナリズムをめぐる新たな議論展開に関する一考察:法実証主義と非法実証主義の視座から」
酒匂一郎(九州大学名誉教授)
「法実証主義の規範的主張」
中山竜一(大阪大学)
「総括コメント」

シンポジウム「「法実証主義」について」
司会 村林聖子(日本法哲学会理事)、濱真一郎(同志社大学)

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※2021年度大会は完全オンライン開催のため手続きが変更されています。詳細は同大会のページで確認してください。

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